アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しながら、自分を受け入れ主張することです。根底にあるのは人間(自己、他者)に対する深くて本質的な理解です。本投稿では、アサーティブコミュニケーションの事例と活用方法、身に付け方であるアサーティブトレーニングついて記載します。
アサーティブコミュニケーションとは
アサーティブ(assertive)とは、「自己主張すること」と訳されます。アサーティブコミュニケーションとは、尊重の心をもって、誠実に、対等に相手に向き合います。自己受容の心で、率直に、自己責任をもってコミュニケーションします。

基本にあるのは受容の心です。他者を受け入れることによって、相手対する尊重の心が芽生えます。尊重の心が軸となり、優劣を意識しない対等な姿勢となります。私利私欲をまじえず、真心をもった誠実さが生み出されます。
自己を受容することによって、ありのままの率直な自分でいられます。自分に向き合うことで他責にしない、自己責任の姿勢が生まれます。
他者への尊重の心とありのままの率直な自分によって、アサーティブコミュニケーションを行うことができます。
根底にあるのは人間(自己、他者)に対する深くて本質的な理解です。人の持つ喜び、怒り、共感、嫉妬、希望、絶望など様々な感情の原因や対処についての知ることが、自己や他者を受け入れる素地となります。

歴史的背景
アサーティブネス(assertiveness)の根底にあるのは、人は誰でも自分らしく生きる権利があるという人権尊重の考え方です。1950年代のアメリカで、黒人への人種差別の解消を求めて行った公民権運動が起点となっています。1960年代後半には世界的に広がった女性解放運動であるウーマンリブに引き継がれました。
人はみな、 誰かに強要されたり、抑圧されることなく自分の考え、 感じ方を率直に表現してもいいということです。アサーティブネスとは、 自分を認め、同時に他者も認めることで互いを尊重することです。
アサーティブコミュニケーションでない例
攻撃的な姿勢
相手の意見はまず否定して、自分の要求を押し付けます。配慮がないため、周囲は委縮したり意見を言わなくなります。相手が引かない場合は争いになります。
相手が委縮しても、争いになっても互いに納得感がないために、前向きで建設的な関係は築くことができません。権力を持って、その場を収めたとしても、協働関係とはなりえず非生産的です。
攻撃的な姿勢の根本にあるのは、他者を受容していないことにあります。回避するためには感情をコントロールすることです。まずいったんは相手を受け入れることが大事です。
受身的な姿勢
対立を嫌がり、自分の意見をはっきりと主張しません。その場はやり過ごせますが、我慢しているためにストレスをためてしまいます。自分の意見を言わないのは、「自分が嫌われないように」するためであり、相手を尊重してのことではなくむしろ自己中心的です。
意見を言わずに、限界に来ると突然その場から去ることになります。職場であれば退職です。周囲もその人自身にとっても、良いことではありません。
受身的な姿勢は、自分を受けれ入れていないことによって生じます。ありのままの率直な自分を否定したり隠していることが原因です。
まずは自分と向き合い、ありのままの自分を受け入れることです。自然と言葉やしぐさで自らを主張することができるようになります。
作為的な姿勢
同じく対立を回避するためには、その場は丸く収めますが、周囲から手をまわします。相手のいない場で悪口をいって、孤立に追い込んだり、周囲を固めて自分の主張を通そうとします。
一見狡猾に見えますが、長い目で見ると信頼を失うことになります。陰口が多い人間は、聞いている相手も、自分のいない場では悪口を言われていると自然に考えるようになるからです。
作為的な姿勢にも、他者への受容がありません。見かけは受け入れているように見える分だけ、改善が難しく質が悪い姿勢です。また自己受容も欠けています。自分に自信がないから姑息な手段をとるのです。
目の前にいる相手を受け入れて、自分とも向き合い意見を言うことです。その場における相互理解が、建設的な信頼関係の基礎であることを認識しなければなりません。
アサーティブトレーニング
DESC法
要望を相手に伝える方法論です。
D:Discribe(描写)
状況や行動の客観的事実を伝えます。解決しようとする問題の現在の状況や、相手の行動について「客観的」に事実を伝えます。事実であるために相手は肯定します。肯定から会話を始めるのがポイントとなります。
例:他社のサービスよりも価格よりも高いことを伝えます
E:Explanation(説明)
描写した事実に対して、自分の思い(主観)を伝えます。相手が反発しないように、責めたり否定的な言葉を使わないようにします。
例:サービスそのものは、他社に比べ気に入っている気持ちを伝えます。
S:Suggest(提案)
前向きな状況にするための「具体的」で「現実的」な解決策、妥協案を提案します。
例:オプションサービスは不要な代わりに、価格が他社と同水準まで下げると、即決して購入する可能性を伝えます。
C:Choose(選択)
こちらの要望を受け入れてもらえた場合、もらえなかった場合に対する次の行動を決めて判断します。
例:値引きに応じる→購入します 値引きに応じない→いったん持ち帰り、上司に相談します。

非言語アサーティブ
言葉以外のコミュニケーション手段を訓練する方法です。
顔の表情
笑顔、困った顔など自分の気持ちを表情で表現します。相手が話している間であっても、気持ちを伝えることができます。
視線
表情とセットですが、目は口ほどものをいうという言葉があります。相手と視線をあわせて伝えます。
ジェスチャー
大げさになりすぎないように、身振りや手ぶりで自分を表現します。
服装、持ち物
清潔感がある服を着る、普段着ない服で特別な好意を表現するなど、服装、持ち物もコミュニケーションツールです。
アサーティブトレーニングのコツは、意識しすぎて不自然にならないようにすることです。トレーニングすることが目的ではなくて、自己や他者への受容の精神を持つことが本質的な解決であることを忘れてはいけません。
ビジネスの活用シーン・アサーティブコミュニケーションの事例
Aさんは、重要な顧客対応のために、仕事量が膨らんでいます。一方上司は、しばらく海外出張のためにAさんとゆっくり話をする機会がありませんでした。帰国後、上司はAさんを呼び出しました。
「出張期間中考えていたのだが、B製品のマーケティング方法を変えたいのだ。アメリカでのやり方の参考資料を渡すから今週中にたたき台をつくってくれ」
攻撃的姿勢「仕事が詰まっています。できません」否定から入ると、上司との関係性が悪化します。
受身的姿勢「わかりました」いったんは引き受けるものの仕事に無理がかかり、顧客対応と上司の依頼の中途半端な仕上がりになってしまいます。
作為的姿勢「なんとかやってみます」無理に仕事を引き受けるものの、上司の無理難題度合いを直接訴えず、周囲に愚痴をこぼして納期を引き延ばそうとします。その場は切り抜けられるものの上司との信頼関係は失われます。

アサーティブコミュニケーションの事例
「ご依頼ありがとうございます。素晴らしいアイディアだと思いました」
→笑顔でいったん肯定します。
「ご不在中、C社からクレームがあり、原因の追究と改善策をまとめなければなりません」
→困った表情を使い、状況を客観的に伝えます。
「C社は、今後、取引が拡大する可能性が高いお客様で、関係性を保つためにも早急に対処したいです」
→熱意の気持ちで上司の目を見て、自分の思いを伝えます。
「C社への対応は今週いっぱいはかかりそうです。その後ご依頼の件を着手して、来週半ばにたたき台を提出したいのですがいかがでしょうか」
納期の見通しの予測のもと、具体的で現実的な提案を行います。もし、了承を得られない場合は、上司との業務分担の見直しを依頼したり、上司が許容できる納期についての聞き取りを行います。
まとめ
アサーティブコミュニケーションは、相互尊重の精神であることを見てきました。経営に置き換えると、経営者、マネージャー(管理職)、一般社員、外注先、お客様との信頼関係と相互尊重です。良好な関係づくりはテクニックではなく、人間に対する深い理解と受容心を持つことが根本にあります。
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